富岡鉄斎
蓮池夏居

Tomioka Tessai
Summer Landscape

掛軸　絹本　102,3cm×35,5cm(総丈197cm×49cm) 共箱　富岡鉄斎鑑定委員会鑑定書取得保証致します。

作品の状態について

画面、表装共に良い状態です。

周敦頤字茂叔雅有高趣尤楽山水遇適意處
或徜徉終日盧［廬］山之麓有溪發源蓮華峯
下潔清紺寒下合於湓江楽之因自號濂
溪而築書堂其上豫章黄庭堅稱
其人品甚高胸懐灑落如光風霽月
　　　　鐵齋外史
※誤字は［　］内に正しい字を註記した。

〈訓読〉
周敦頤、字(あざな)は茂叔、雅にして高趣有り。尤(もっと)も山水を楽しみ、意に適(かな)ふ処に遇(あ)へば、或(ある)いは徜徉して日を終ふ。廬山の麓に渓有りて源を蓮華峰の下に発し、潔清紺寒にして下るも湓江に合す。之を楽しむ。因(よ)って自ら濂溪と号(な)づけて、書堂を其の上に築く。予章黄庭堅称(ほ)む、其の人品甚(はなは)だ高く、胸懐灑落にして光風霽月の如(ごと)しと。　鉄斎外史。

◯周敦頤（1017−1073）　中国、北宋の儒学者。湖南省道県の人。字は茂叔。濂渓先生と呼ばれた。太極説を唱えて、宋学の宇宙論の確立に寄与した。死後、南宋の大儒朱熹（1130−1200）の顕彰により、宋学の創始者と崇められた。著に『太極図説』『通書』『周子全集』など。　◯徜徉(しょうよう)　のんびりする。　◯廬山　江西省九江市の南にある山。　◯湓江(ぼんこう) 源を江西省瑞昌県に発して九江市の西北で長江に注ぐ川。　◯濂渓　江西省の廬山の蓮花峰の麓を流れ長江に注ぐ川。周敦頤が蓮花峰の麓に住み、故郷、湖南省道県の「濂渓」の名をとって名付けた。　◯黄庭堅（1045−1105）　中国、北宋の詩人・書家。字は魯直。号は涪翁、山谷道人。黄予章とも呼ばれた。詩文は杜甫と蘇軾を尊び、江西詩派の祖とされる。書は草書・行書に優れた。　◯灑落(しゃらく)　さっぱりとしていて、物にこだわらないさま。　◯光風霽月(こうふうせいげつ)　日の光の中を吹き渡るさわやかな風と、雨上がりの澄み切った空に浮かぶ明月。心がさっぱりと澄み切ってわだかまりがなく、爽やかなことの形容。

〈私訳〉
周敦頤の字は茂叔。雅であって高尚な趣を備え、とりわけ山と水のある自然の景色を好み、お気に入りの場所を見つけると、そこでのんびりして1日を終えるのである。江西省の廬山のふもとには、源を蓮花峰のふもとに発して清くきれいで寒々としたまま湓江に注ぐ小川が流れている。（濂渓先生は纓(＝冠のひも)を洗いながら）これを楽しんでいた。そこで、故郷である湖南省道県の西を流れる河川の名をとって「濂渓」と命名し、そのほとりに書堂を築いて住んだ。黄庭堅は「濂渓詩」序で濂渓先生の人柄を「品格は立派で衆を抜きん出て、心がさっぱりとしてわだかまりがないのは、まるで光風霽月のようだ」と賞賛した。

〈解説〉
　赤・白・桃色の蓮の花が色鮮やかに咲いた蓮池、そのほとりに建つ庵には静かに読書にふける周敦頤（濂渓先生）、画面左下にはそこを訪ねる高士、遠景には聳え立つ廬山の蓮花峰が描かれています。周敦頤は蓮を愛で、書堂の周りにはいくつもの蓮池が連なっていたそうです。
　賛文には南宋の朱熹が著した『伊洛淵源録』の「濂渓先生事状」を出典とする文章が記されています。この著書は、北宋の周敦頤、程顥、程頤、邵雍および二程の交友、門人の計47人の伝記や言行、逸話などを収録しています。なお、賛文の最後の「其の人品甚だ高く、胸懐灑落にして光風霽月の如し」の語は、黄庭堅が周敦頤の人柄を評した言葉で、周敦頤を語る者はこれを必ず言及します。(Ｙ)

作家について

富岡鉄斎（1836〜1924）は、京都に生まれた日本画家。

「万巻の書を読み 万里の道を行く」の座右の銘を実践した鉄斎の作品は、壮大なスケールと存在感を放っている。

画は勿論、国学・儒学を修め、幕末には...

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