富岡鉄斎
売茶高遊外像

Tomioka Tessai
Baisao

掛軸 紙本 134,8cm×33,1cm(総丈196cm×45cm) 共箱 二重箱入 富岡鉄斎鑑定委員会鑑定書取得保証致します。

作品の状態について

画面、表装ともに大変良い状態です。

咄這瞎漢謾打風顚早歳入釋事師
參禪百城煙水遠探要津熱喝痛
棒甞[苦]喫辛歴盡雪霜自救不了
顢頇面皮懡㦬多少老来安分為
賣茶翁乞錢博飯樂在其中煮
通天潤鬻渡月橋(花)若人論味驀口嗟(蹉)過
囙憶昔年王大(太)傅依然千古知音少(少知音)
　　盧仝正流兼達磨四十五傳
　　八十二翁高居士遊外自贊
　　縮寫若冲筆 鐵齋外史
※ 誤字は(　)内に正しい字を註記し、脱字は[　]で示した。
(読み)
咄 這の瞎漢(かつかん)、謾(みだり)に風顛を打す。
早歳 釈に入り、師に事(つか)へて参禅す。
百城の煙水、遠く要津を探る。
熱喝痛棒、苦を嘗め辛を喫す。
雪霜を歴尽して、自救不了(じぐふりょう)。
顢頇(まんかん)の面皮、懡㦬(まら)多少ぞ。
老来 分に安んじて、売茶の翁と為る。
銭を乞うて飯に博(か)へ、楽は其に中に在り。
通天の潤(たに)に煮、渡月の花に鬻(ひさ)ぐ。
若し人 味を論ぜば、驀口(まっく)に蹉過(さか)す。
因って憶ふ 昔年の王太傅。依然として千古知音少(まれ)なり。
　　盧仝が正流、兼ねて達磨四十五伝。
　　八十二翁 高居士遊外自ら賛す。
　　若冲の筆を縮写す。 鉄斎外史。

○瞎漢　目の見えない奴。ものの分からぬ奴。　○風顛　きちがい。異常な行動をすること。　○自救不了 自分さえ救いおおせない。人々を導く僧侶として資格なし。　○顢頇　大きな顔のさま。　○懡㦬　恥をかくこと。　○驀口　口めがけてまっこうに。まっこうから。正面から。　○蹉過　すれちがう。　○因憶昔年王太傅　『碧巌録』第四十八則 王太傅煎茶の公案のこと。　○知音　自分を真実にわかってくれる友をいう。

(大意)
チェッ、このド盲目め、やたらに阿呆なことをする。子供の時に仏道に入り、師に仕えて参禅し、遠く諸方を行脚して、悟りを求め、師匠に怒鳴られたり棒で叩かれたり、苦しい目、辛い目にあって、幾年も経過したが、一向に悟りを開けず、自分自身を救うことさえできず、大きな面をしているのは、お恥ずかしいかぎり。年をとってから、わが分際に安んじ、茶売り爺さんとなり、茶銭を乞うて飯代とし、その中に楽しみを求めている。東福寺の通天橋の谷川で茶を煮たり、嵐山の渡月橋の花に茶を売っている。もし私の茶をうまいとか、まずいとか論ずる人があれば、それは、まっしぐらに行き過ぎて真理を離れてしまう。というのは私は実は茶を売っているのではなく、禅道を説いているのだ。そこで思い出すのは、昔、王太傅(延彬)が招慶寺で煎茶した際、朗上座が茶銚をひっくり返したのを機会に、王太傅(延彬)が朗上座に禅問答を仕掛けたが、朗上座は頓と会得できなかったという故事である。千年後の今日でも、やはり同じことで、禅を知る人は稀である。
　唐の茶人盧仝の正流、兼達磨宗の第四十五伝、八十二翁高遊外居士が自ら賛する。
　伊藤若冲の筆を縮写した。 鉄斎外史。
(印章)
・｢銕斎外史｣朱文方印　明治41年(1908) 桑名鉄城刻
・｢易画書院｣白文方印　明治33年(1900) 円山大迂刻
・｢医俗｣朱文楕円印　明治時代 小沢荻処刻　※天地逆さに押印　

　本作は鉄斎が伊藤若冲筆｢売茶翁像｣(売茶翁自賛)を縮写したものです。売茶翁が天秤棒に凉炉と茶壺をぶら下げ、肩に担ぐ姿を描いています。図上の売茶翁82歳の自賛もそのまま写したものと考えられます。この自賛は『売茶翁偈語』に収まる｢自賛三首｣の一首です。
　若冲が描いた｢売茶翁像｣は現在8点確認されていますが、売茶翁が自題したものは1点のみです。それは売茶翁83歳のもので、本作の原本は異なります。したがって本作は、若冲が描いた｢売茶翁像｣に82歳の売茶翁が自賛した作品が存在すること、鉄斎がそれを鑑賞していたこと、を知る資料としても貴重なものと言えるでしょう。
　鉄斎は長きにわたり数種類の売茶翁像を多く描きました。｢売茶遊外像｣(48歳)や｢売茶翁対客言志巻｣(50歳代)、｢売茶翁図｣(89歳)などです。本作はその一つで、70歳代の作だと考えられます。(Ｙ)

○売茶翁(月海元昭、1675－1763)　江戸期の黄檗僧。還俗して高遊外と称し、京都東山(東福寺通天橋の傍)に通仙亭という茶店と出して売茶の業を始める。

作家について

富岡鉄斎（1836〜1924）は、京都に生まれた日本画家。

「万巻の書を読み 万里の道を行く」の座右の銘を実践した鉄斎の作品は、壮大なスケールと存在感を放っている。

画は勿論、国学・儒学を修め、幕末には...

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