頼山陽
水西亭小集七絶

Rai Sanyo
Calligraphy

掛軸　絹本　131,5cm×46,2cm(総丈205cm×56,5cm) 頼潔箱書　二重箱入

作品の状態について

画面、表装共に大変良い状態です。
表装裂は大変上等な緞子が使われています。

數點紅燈照夜流微風不到柳
梢頭恠来涼氣生厷袂聞道明
朝是立秋 乙酉季夏念二夕水西亭同元瑞伯擧
　限韻作 山陽外史

〈訓読〉
数点の紅燈 夜を照らし流れる、微風到(いた)らず 柳梢の頭。怪(あや)しみ来たる 涼気 肱(うで)の袂(たもと)に生ずるを、聞道(きくなら)く明朝は是(こ)れ立秋なりと。
　乙酉季夏、二夕水西亭に元瑞伯挙を同(あつ)めるを念(おも)う。
　限韻の作。山陽外史。

〈大意〉
いくつかの赤い灯火は夜を照らして(鴨川を)流れ、そよ風は柳の梢の先にまだ吹いていない。しかし、不思議なことに、腕の袂に涼しさを感じる。聞くところによれば、明日は立秋だという。
乙酉季夏、ふた晩、水西亭に元瑞・伯挙を集めたことを懐かしく思う。限韻の作。山陽外史。

〈印章〉
・朱文方印「頼襄之印」
・白文方印「頼氏子成」
・白文長方印「満壁山水草堂」　　

【箱書】
山陽翁此詩與小石檉園浦上春琹等所同賦事讀如款識水西亭盖翁讀書之室別有山紫
水明處之號又按乙酉實文政八年也翁時年四十六然則此書為中年以後之作可以
知也　　　　戊午楳雨節觀於平安酔古堂 賴潔拜題　　　　　　　

〈訓読〉
山陽翁の此の詩、小石檉園・浦上春琴等と同(とも)に賦事して読む所は款識のごとし。水西亭、蓋(けだ)し翁の読書の室は別に山紫水明處の号有り。又た乙酉を按(しら)ぶれば実(こ)れ文政八年のことなり。翁、時に年四十六。然(しか)らば則(すなわ)ち此の書は中年以後の作と為すこと以て知るべし。戊午梅雨節、平安酔古堂に観る。賴潔拝題。

〈解説〉
　山陽の款記と孫の頼潔の箱書によると、文政8年(1825)の夏、山陽46歳の時に小石檉園や浦上春琴らを自宅の水西荘に集めて一緒に作った詩を、のちに懐かしんで揮毫した作品であることが分かります。しかし、木崎愛吉・頼成一編『頼山陽全書 全傳下巻』(頼山陽先生遺蹟顕彰會、昭和７年)の〔文政八年〕にこの事は記載されておらず、本作品は小集(＝少人数の集まり)の事実と檉園や春琴らとの深い親交を知る貴重な資料と考えています。
　水西荘は、山陽が晩年を過ごした住まいです。文政5年(1822)に6度目の転居で東山の眺望が美しい地(東三本木)に移り、｢水西荘｣と名付けました。鴨川の西岸に面し、親しい友人が来ると鴨川の水を汲んで煎茶を入れて振る舞うなどして、自由な茶の湯を楽しんだそうです。庭には梅・桜・桃・ツバキ・ナツメなどの花木や実のなる木を植えていたといいます。文政11年(1828)には、水西荘の離れに書斎兼茶室として｢山紫水明處｣を建てました。(Ｙ)

◯小石檉園(1784−1849)
江戸後期の蘭方医。京都生まれ。江戸で杉田玄白、大槻玄沢らから蘭方を学ぶ。帰京後、父の私塾究理堂を継ぎ、新宮凉庭とともに京都の二大蘭方医と称された。頼山陽、田能村竹田らとも交遊した。名は竜、字は元瑞、号は拙翁、檉園など。

◯浦上春琴(1779−1846)
江戸後期の文人画家。備前(現岡山県)生まれ。浦上玉堂の長男。父の脱藩に従って各地を遊歴、のち京都を活動の拠点とした。頼山陽や小石元瑞、田能村竹田らとの交友で知られる。頼山陽と初会見したのは文化3年(1806)6月12日。玉堂の独創的な画風とは異なり、温雅な花鳥画や山水画を描き、生前は父以上の評価を得ていた。名は選、字は伯挙、号は春琴、睡庵など。

作家について

頼山陽（1780～1832）は、頼春水の長男。広島藩の藩儒となった父から、厳しく育てられた山陽は若い頃から奇行に走り、やがて脱藩、京へ出て塾を開いた。山陽の周辺には木米、田能村竹田、岡田半江、浦上春琴など...

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