富岡鉄斎
観世音菩薩乗龍像

Tomioka Tessai
Kannon

掛軸　紙本　136cm×34cm(総丈198cm×49cm) 共箱　富岡鉄斎鑑定委員会鑑定書附

作品の状態について

画面、表装共に大変良い状態です。

衆生墮八難身心倶喪失惟有一念在
能呼觀世音火坑與刀山猛獸諸毒藥衆
苦萃一身呼者常不痛呼者若自痛
則必不能呼若其了不痛何用呼菩
薩當自救痛者不煩觀音力衆生以
二故一身受衆苦若能眞不二則
是觀世音八万四千人同時倶赴救
　東坡居士贊 鐵齋外史

〈読み〉
衆生八難に堕（だ）し、身心倶（とも）に喪失す。惟だ一念の在る有りて、能く観世音と呼ばば、火坑と刀山と、猛獣諸毒薬、衆苦一身に萃（あつま）るとも、呼ぶ者 常に痛まじ。呼ぶ者 若（も）し自から痛まば、則ち必ず呼ぶこと能（あた）はず。若し其れ不痛を了せば、何ぞ用ひん菩薩を呼ぶことを。当に自から痛者を救ふべく、観音力を煩（わづら）はさじ。衆生は二を以ての故に、一身 衆苦を受く。若し能（よ）く真に不二ならば、則ち是れ観世音、八万四千人、同時に倶に救に赴かん。
　東坡居士が贊。鐵齋外史。

〈語句〉
◯衆生（しゅじょう）＝仏語。あらゆる生物。また、多くの人々。
◯八難＝仏語。仏を見て法を聞くのに妨げとなる八つの状況。すなわち、地獄・餓鬼・畜生・長寿天・辺地・盲聾瘖瘂 （もうろういんあ）・世智弁聡 （せちべんそう：邪見）・仏前仏後（仏のいない世）のこと。

〈大意〉
衆生は地獄・餓鬼・畜生・長寿天・辺地・盲聾瘖瘂 （もうろういんあ）・世智弁聡 （せちべんそう）・仏前仏後の八難に堕し、身心ともに喪失する。ただ一念があって観世音の名を呼ぶと、火の坑（あな）・針の山・猛獣・諸々の毒薬など、衆苦が一身にふりかかって来ても、観世音の名を唱える者は、常に痛むことがないだろう。もし、呼ぶ者が自ら痛むなら、必ず観世音の名を唱えることはできないはずだ。もし、諸法皆空、痛みもまた空で実体のないことを悟るならば、観世音の名を唱える必要はない。まさに自ら痛み苦しんでいる者を救い、観音の力を借りることはないだろう。衆生は有見と無見の相対立する二見に迷うが故に一身に衆苦を受けるのだが、もし一実の理、如々平等にして彼此の区別なき不二を悟るならば、この身この心がそのまま観世音であって、八万四千人の菩薩と、同時に共に救いに赴くであろう。
　蘇東坡の賛。鉄斎外史。

〈印章〉
・「百錬・無倦」白文・朱文方連印
・「蕉鹿図」象形印

〈解説〉
　水墨画で表された騎龍観音像です。円相状の光背を負い、右手に楊柳の枝をさした水瓶を持った観音菩薩が龍に乗って人々を救いに来る姿が描かれています。賛の出典は、『東坡禅喜集』巻之二・観音賛です。(Ｙ)

作家について

富岡鉄斎（1836〜1924）は、京都に生まれた日本画家。

「万巻の書を読み 万里の道を行く」の座右の銘を実践した鉄斎の作品は、壮大なスケールと存在感を放っている。

画は勿論、国学・儒学を修め、幕末には...

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